OSHMAN'S 40周年に捧げた 原型を留めないWEAPON

2025/07/04 12:00

OSHMAN'S 40周年に捧げた

原型を留めないWEAPON

40周年を迎えたオッシュマンズの特別企画の一つとして、コンバースのWEAPON PS HIが完成しました。東京・下北沢「soma」の徳永勝文さんと静岡・藤枝「Magforlia」の山田隆也さん。ヴィンテージへの深い愛情をスニーカーシーンに注ぐ名店が監修したデザインは、もはやその原型を留めていないとも言えます。しかしそこには、何よりもWEAPONを愛したNBAのスターたちのこだわり、歴史が詰まっていました。その強い想いを載せた、3名のストーリーです。

(左)OSHMAN’S

営業部 チームマネージャー 兼 営業企画 チームマネージャー

寺田勝英/Masahide Terada

(中)magforlia オーナー

山田隆也/Takaya Yamada

(右)soma オーナー

徳永勝文/Katsufumi Tokunaga

アメリカを起源とした店とブランド。

原点の結びつきを伝えたかった

―まずは3人の出会いについて教えてください。

寺田:まず私と山田さんとは20年以上前からの知り合いで、新しい、おもしろいことをやりたいね、みたいな話を常々雑談ベースでしていたのですが、OSHMAN’Sの40周年というタイミングで、改めて声を掛けさせていただきました。山田さんが「コンバースさんで何か作りたい」と話をいただき、それなら、ご自身でもいろいろとコラボレーションを手がけている徳永さんにも参加してもらいたいな、と。業界をリードするお二人が一緒にもの作りをする。これは今までにない大きなスニーカーのプロジェクトになる、と感じました。

OSHMAN’S以前、mita sneakersの国井さんと一緒に「TimeLine(タイムライン:2014年にスタートしたコレクション)」を発起した経緯もあり 、コンバースさんとのご縁は感じていました。何よりコンバースはアメリカのスポーツブランドであり、OSHMAN’Sもアメリカを起源としたお店です。その原点の結びつきみたいなものを、この取り組みで伝えたい気持ちもありました。

―山田さん、徳永さんにとってOSHMAN’Sはどんな存在ですか?

山田:僕は上京した97年に初めてお店に行きました。原宿駅前の地下、ワクワクしましたね。入り口に特価品がたくさん積み上がっていて、中に入るとアウトドア一色。そんな光景でした。別注品もいろいろあったし、とにかく刺激をもらう場所でした。そこから町田の店舗にも掘り出し物を探しに行ってました。

徳永:そうですね、入り口のワゴンセールはマストで見ていました。自分は、スノーボードのウェアや、走る用のシューズを買ったことが何度かあります。下北沢に住んでいたので、散歩がてら代々木公園を走る流れで、OSHMAN’Sで買い物する、みたいなことは何度かありました。

山田:ほんと、入り口にいいものがたくさんあったもんなぁ。

寺田:売れ残りではありましたが。時代が追いついていなかった、ということでしょうか(笑)

―お二人と「ヴィンテージ」は切り離せないキーワードだと思いますが、なぜずっと古いものに惹かれ続けているのですか?

山田:やっぱり世代ですよね。僕たちの高校生の頃は当たり前のように70年代、60年代の古着を、まるでレールを敷かれたように好きになっていたじゃないですか。ただ、当時はアルバイトをしていなかったから欲しいものを買えず。とにかく雑誌を読み込んでいました。で、上京してたくさんのお店に出会い、ようやく溜め込んだ知識を発揮できる機会が訪れた感じです。ヴィンテージって、革の雰囲気からフォルム、匂い、劣化の仕方ひとつとってもかっこいいじゃないですか。

徳永:現行品とはすべてが違うよね。

山田:革の質は大きいですよね。あとは染色。生産国もね。でも、そこに理由はないんです。知らない若い子とかに「アメリカ製って何がいいんですか?」って理由を聞かれても答えられないんですよ。

徳永:すべてが違いすぎて。

山田:もう洗脳されているようなものです。「Made in USA」、「Made in France」、「Made in West Germany」という言葉に魅了されている。

徳永:僕も「分からないなら、それも幸せだけど、こっちの世界も面白いよ」って話します。うちはヴィンテージ専門なので、気持ち的には(こっちの世界に)来て欲しいですけど。よく若い子が何を買ったらよいですか? と相談されるんですが、その時は「今持っているもののオリジナルを買ってみたら?」と話します。比べてみたら、ちょっとは面白いかもよ、と思うので。

寺田:僕もお二人のようなヴィンテージのコレクターでもスペシャリストでもありませんが、スニーカー業界には20年以上関わっていますので、おっしゃるような違いや生産国とか、肌感で理解しているつもりです。古いものへの憧れを、今回のモデルで表現できたのでうれしいです。

WEAPONのもつボリュームを

どこまで削ぎ落とせるのか

―その流れで今回はコンバースの中でなぜ、WEAPONを選んだのでしょうか?

寺田:オールスターやワンスター、ジャックパーセル。コンバースのアイコン的なモデルはたくさんありますが、せっかくお二人と取り組めるのなら、他の人が選ばない、メインストリームではないマニアックなことをやってみたかった。先ほど、お二人がおっしゃっていた店頭のセール品の話じゃないですが、ニッチな需要を喚起してきたショップの歴史を、ファンに懐かしがっていただく、また若者に知っていただいく良い機会だと思います。

山田:僕、コンバースもいろいろ買ってきましたがWEAPONが大好きなんですよ。80年代のこうしたバッシュ全般が好きかと言われると、全然そんなことはないのですが、スターテックやプロレザーにも惹かれる。

徳永:僕はWEAPONって最初に言われて頭抱えました(笑)

山田:真逆の対応ですね。

寺田:マジですか。。。

徳永:お店でもWEAPONのヴィンテージを探しに来る人は少ないんで。ただ、最近はコンバースジャパン製のモデルって人気なんですよ。WEAPONのイメージはそこまでなかったですが、最近復刻されたりして気にはなっていました。

山田:「soma」で扱っているのは細身のシルエットが多いですしね。

徳永:はい。この重厚感をどうするか、すごく悩みました。ボリューミーなものってヴィンテージだと売りにくいんです。しかもハイカットか、ってのが最初の印象でした。

―しかしながら完成したWEAPONは、すごくスタリッシュです。

寺田:ベースはこのTimeLineで発売されたWEAPONになりますが、全然違うものになりました。

山田:OSHMAN’Sさんは40周年だし、徳永さんはコンバースとのコラボレーションをsomaとして出しているけど、magforliaとしてはまだやったことがない。だからこそ渾身の一足を作りたいって思いました。で、徳永さんに「僕がディテール決めていい?」って提案したんです。その代わりに「色は決めてください」みたいな感じです。だから結構わがまま言ってしまいました。既存のモデルとはまったく別物に見えますが、すべて脈絡はあるんです。

徳永:カラーはOSHMAN’Sさんだけに、オレンジかなと。

寺田:気を遣ってもらわなくてもいいですよ、って言ったんですが。

徳永:いえ、イメージカラーなので。で、コンビネーションどうする?って話になり、僕が黒好き、ということで。

―山田さん、ディテールへのこだわりを教えていただけますか?

山田: WEAPONといえばラリー・バードとマジック・ジョンソン、二人のNBAプレーヤーが広告塔でした。彼らが実際に履いていたシューズは、一般的に販売されているシューズではなく、彼らのリクエストに応えたPS(プレイヤーズスペック)なんです。まずはそのディテールを盛り込みたかった。一番わかりやすい部分はこのシュータン。通常は分厚いタイプですが、選手別注はこの薄いものがよく使われているんです。

シュータンが分厚いって、じつは結構売れにくい要素だったりするんですよ。スケートシューズだと良いのですが、履き口にもボリュームがあると、パンツに合わせづらかったりしますよね。そこをオリジナルのような劣化しやすいウレタンの吹き付けではなく、天然皮革にしてもらいました。


これはウォルター・デイビスという当時のNBA選手のPE(プレイヤーエクスクルーシブ)モデルなんですが、ラリー・バードのPEもですけど、プロレザーのソールを特別に履かせていたんです。しかもバーナード・キングのPEに関しては、本来あるはずのトウガードがなく、ステッチだけで補強が表現されていたんです。こういう選手仕様の珍しいディテールを盛り込めたら、造形の美しさにもつながるんじゃないかと思いました。

―こうした珍しいディテールは選手のリクエストで生まれたんですか?

山田:当時のバッシュは主に韓国や台湾の工場で生産されていたんですが、PEって基本的にアメリカ製なんですよ。おそらく選手の要望にクィックに対応するためだったんじゃないか。そしてアメリカ工場は70年代を中心にランニングシューズの生産も担っていたから、選手からのリクエストに応えるべく、薄いスポンジのシュータンを作るノウハウを持っていたのではないか。これは推測の域を出ませんが、僕が勝手に思っているんです。

徳永:プロスターとかもアメリカ製で、このシュータンですね。やっぱり薄いと紐を縛った感じがいいです。

山田:マジック・ジョンソンは、この後に履いていたモデルでも、ずっとプロスターのソールを使っていたようです。一方でラリー・バードはWEAPONにプロレザーのスペックを取り入れていました。やっぱりこっちの方がそれぞれに合っていたんだと思います。

徳永:めちゃくちゃ柔らかいよね。ライニングも全然違う。これで見た目の悩みも解消されました。レギュラーでこれが発売されたらいいけど、なかなか。

山田:PEって、小回りが効く別注みたいなものだから、面白いのがいっぱい出てくるんですよ。

寺田:あとは山田さんと徳永さんが、トウとサイドのホールを大きくしてくれと。現行モデルと見比べてみると印象が大きく変わりました。あとは茶芯のレザーを使うことで、側面の毛羽立ちがヴィンテージっぽく仕上がっています。

徳永:これ、一週間前くらいにいただいたので、先週の札幌でのポップアップ期間中にずっと履いていたんですが「こんなヴィンテージあるんですか?」ってよく聞かれました。自信が出てきました。

込められたストーリーを伝えて

売りたい靴が売れる未来に

―今回、OSHMAN’Sがローカルな影響力を持つ2ショップと関わることの意義をどう感じていますか?

寺田:お二人とは個人的な繋がりでお願いした感覚が強いので、正直「対お店」という視点ではないかもしれません。ですが最初にもお話しした通り、OSHMAN’Sの店舗は増えていても、インディペンデントな気持ちを忘れずに大きくなっていきたい。我々世代の業界の方々にお店の思い出を聞くと、みな「マニアックな掘り出し物を見つけるのが楽しかった」言ってくださります。売れ残りを作ってしまった故に安売りをしていたので、商売的には美談にしにくいところもありますが(笑)、それが皆さんのいい思い出に残っている事実は、大切にしたいです。

徳永:選択肢はいっぱいあるし、妥協もできる時代ですよね。自分たちはやっぱりおもしろい商品を待ち望んでいますし、若い世代にはそれが新しく感じてもらいたいです。「アウトレットで安いスニーカー買う」みたいな人が「高くても欲しい」と思えるような、熱量のあるものが出て欲しいですよね。

山田:伝え方だと思うんですよ。僕も業界に25年以上いますが、昔ってお店それぞれに売れるモデルがあった。けどSNSが発達して世の中がフラットになって「他で売れるものを売ればいいや」みたいなお店が増えていると思うんです。うちと「soma」は毛色が似ているかもしれないけど、他で売れないものが売れている。「僕はこれを売りたい」って気持ち、販売やバイイングの基本なんですよね。昨今の”色がついてないものが最強”みたいな価値観って本当につまらないですよ。エッジが効きすぎると若い子に敬遠されちゃうなら、ちゃんとストーリーを乗せて説明する。そうすると、買いたくないものが欲しいものに変わる瞬間があると思うので。このWEAPONなんてまさに伝えることで初めて売れるシューズ、って感じています。ですよね?

徳永:ちゃんと伝えます。頑張ります。完璧な作りだと思います。この時代にここまで3人で作り込めたことも大事だし、コンバースさんも頑張ってくれたし。

山田:本当に自由なプロジェクトで楽しかったです。最初のミーティングの後に徳永さんと飲みに行ったんですけど「いつもこんなに何でもできるの?」って聞いたんですよ。そしたら「違うよ、多分今回は特別なんだよ」って徳永さんも言ってくれて、嬉しい気持ちと責任感が入り混じって頑張りました。メーカーが普段やりたくてもできないことでも、僕たちと一緒に作り上げたことが実績になって、通常の商品にも生かされて欲しいです。

寺田:アウトソールなんて“PRO LEATHERで使われている”「ALL STAR」の刻印がされたまま製品化されていますしね。普通に考えてありえないと思います。

徳永:絶対断るだろうな、と思って聞いていたのに「できますよ」って二つ返事していて、本当にすごいなと思いました。

山田:「当然やりますよ」みたいな言い方でしたもんね。僕がずっと頭の中に書き溜めてきたアイデアと知識を、惜しみなく放出できました。すごく満足しています。

寺田:箱も80年代らしく銀色のトリコロールにしようと思ったのですが、シューズにちなんだカラーで特別に制作してもらいました。ぜひ見て欲しいです。

山田:ヴィンテージ好きの同世代だけでなく、若い世代や女性にもぜひおしゃれに履いてもらいたいですよね。


STAFF CREDIT
Photography_Yuichi Sugita
Interview & Text_Masayuki Ozawa (MANUSKRIPT)
Producer_Narumi Yoshihashi (MANUSKRIPT)


紹介アイテム

  • WEAPON PS # HI

    WEAPON PS # HI

この記事を読んだ方におすすめ

  • 【俺たちのNewBalance】スタッフの私物を公開します!お気に入りのニューバランス3選!第2弾/シューズ担当 坂下

  • BBQやCAMPなど!アウトドアやスポーツ、引っ越しにも最適な2輪・4輪カートが登場!

  • ストリートイメージの強いメッセンジャーを都市型仕様に!《AER》に型から別注したミニマルメッセンジャーが登場!

  • ”あの頃感”がたまらない!《Simple》の名作シューズが約10年の時を経て日本で再販売開始